レーザー冷却実験グループ@駒場
レーザーを用いて気体原子を冷却または捕獲する「レーザー冷却」という研究分野は、1980年代後半から飛躍的に発展してきました。1995年には、このレーザー冷却技術を基礎として、気体原子のボース・アインシュタイン凝縮(BEC)が実現され、基礎物理学的な興味からも、また応用的な見地からも、多くの研究者の注目を集めています。気体原子のBECは,単一の量子状態にマクロな数の原子が存在している状態にあり,光におけるレーザーに対応するものです.実際,気体原子のBECが光のレーザーと類似する性質(指向性や可干渉性)を持つことが,実験によって明らかにされています.このことから気体原子のBECは「原子レーザー」とも呼ばれます.今や人類は「原子」と「光子」の両方のレーザーを手にしたのです。
ちなみに、1997年にはレーザー冷却の発展に大きく貢献した3氏(チュー、フィリップス、コーエンタノージ)に、2001年には気体原子のBECを最初に実現した3氏(コーネル、ワイマン、ケターレ)にノーベル物理学賞が贈られました。また、2005年のノーベル物理学賞の対象である光周波数コムは、レーザー冷却された原子を用いた原子時計の絶対周波数測定がその開発のモチベーションの一つとなっています。2012年にはレーザー冷却された単一イオンの量子操作に対してノーベル賞が贈られています。このように、レーザー冷却技術は物理学のワークホースとして活躍し続けており、この状況が今後も続くことに疑いの余地はありません(ちょうどレーザーが物理学で活躍し続けることに疑いの余地がないように)。
鳥井研究室は久我研究室を協力して光,原子両方のレーザーを駆使し,量子力学の基礎に関わる実験から原子時計の実用化に向けた実験まで,幅広く手がけています.我々がこれまでに行ってきたテーマ、および、計画中のテーマを以下に紹介します。
1.
レーザー冷却された原子の非線形分光(Prog. Crystal Growth and
Charact., 33, 413 (1996))
2.
レーザー冷却された原子の光トラップ(Phys. Rev. Lett. 78, 4713 (1997),.Eur. Phys. J. D1, 239 (1998))
3.
日本初のRb原子BECの実現(レーザー研究、第28巻3号(2000))
4.
BECを用いた原子波干渉計の構築、およびその応用(Phys. Rev. A 61, 041602
(2000))
5.
BECを用いた物質波増幅器の実現(Science 286, 2309
(1999))
6.
微小時間領域でのBECの超放射(Science
300, 475 (2003))
7.
BECにおける超放射ラマン散乱(Phys.
Rev. A 69, 041603 (2004))
8.
超放射による原子集団のコヒーレンス時間の測定(Phys.
Rev. Lett. 94, 083602 (2005))
9.
高性能ボース凝縮体生成装置の開発(Rev.
Sci. Instrum. 77, 023106 (2006))
10.
BECを用いた光パルスの多重保存(Phys.
Rev. Lett 99, 220407 (2007), Phys. Rev. A 79, 025601 (2009))
11.
光モラセス(糖蜜)から発せられる蛍光の強度相関測定(Opt. Exp. 18, 6604 (2010))
12.
偏光分光法を用いたレーザー線幅狭窄化の研究(Opt.
Lett. 37, 2865 (2012), Phys. Rev. A 86, 033805 (2012))
13. Sr原子のレーザー冷却のための461nm光源の開発(J.
Phys. Soc. Jpn. 81, 034401 (2012),
Rev. Sci. Instrum. 84, 063101 (2013))
14.
原子コヒーレンスを用いた線幅1Hz級レーザーの開発
15. BECを用いた量子相関のある原子対の生成,および量子情報への応用(量子原子光学)
16. 極低温極性分子の生成および電子電気双極子モーメント(eEDM)の探索
17. BECとX線との相互作用の研究